信託受益権と金融商品取引法

平成19年の金融商品取引法の改正によって次のように有価証券の種類が分けられました。

有価証券の種類

①第一項有価証券(法2条3項本文)
法2条1項に掲げる典型的な有価証券(紙が発行されることが前提の有価証券)と、法2条2項前段に規定する有価証券(法2条1項の有価証券のうち紙が発行されない有価証券=有価証券表示権利)
②第二項有価証券
第二項に規定する有価証券ではなく、第二項各号(1号から7号)に規定する有価証券です。 証券の発行・不発行に関わらず、信託の受益権、集団投資スキーム持分等に係る権利を有価証券とみなします。

金融商品取引法の有価証券は、歴史的に、有価証券という「紙」が発行されることを前提としています。ところが、現在は、株券のペーパーレス化にみるように、紙が発行されるケースの方が少ないくらいです。そこで、法2条1項に掲げる有価証券に基づく権利(株券の配当を受ける権利)は、紙が発行されなくても、有価証券とみなされます(法2条2項前段)。これを「有価証券表示権利」といい、法2条1項に掲げる有価証券と有価証券表示権利を併せて「第一項有価証券」と言います(法2条3項本文)。さらに、法2条2項各号に掲げる権利を有価証券と見なし、「第二項有価証券」と呼んで、第一項有価証券と区別しています。

まとめますと、有価証券には、法2条1項に掲げる典型的な有価証券(紙が発行されることが前提の有価証券)と、法2条2項前段に規定する有価証券(法2条1項の有価証券のうち紙が発行されない有価証券)、それに法2条2項各号に掲げる有価証券の3種類があり、法 2条1項に掲げる有価証券と法2条2項前段で規定する有価証券を「第一項有価証券」と呼び、法2条2項各号に掲げる有価証券を「第二項有価証券」と呼びます。
分けた理由は、流通の程度によって、区別したからです。第一項有価証券は流通の程度が高い(頻繁に売買される)有価証券であるから、募集は50人以上(金商法施行令1条の5)に取得の勧誘を行う行為であると定義し、第二項有価証券は、流通の程度が低い(ほとんど売買されない)有価証券であるから、募集は500人(金商法施行令1条の7の2)以上が取得することとなる行為と定義しています。

有価証券届け出義務

第一項有価証券
50名以上、1億円以上の勧誘となる場合
第二項有価証券
500名以上の者が取得することとなる場合

課税の取り扱いについて

新信託法第185条以下の「受益証券発行信託」に基づく受益権は金融商品取引法第2条1項の有価証券であり、以下の取り扱いとなります。

  1. 当該受益権は、株式または出資とみなされ受益権者である個人の受益権譲渡による所得は、株式等に係る譲渡所得として所得税が課税される。
  2. 収益の分配については、所得税法上配当所得とみなされるとともに、受託者は、その収益の分配を行う際、所得税の源泉徴収を行うことになる。

通常の受益権(金商法第2条2項1号)であれば、不動産信託の場合信託配当も不動産所得とみなされ、また、当該受益権を売却しても不動産の売却とみなされ、租税特別措置法上の事業用資産の換え換え特例も適用される。(注)但し、「土地信託に関する所得税、法人税並びに相続税及び贈与税の取り扱いについて(昭和61年7月9日)」の国税庁通達が、新信託法施行と同時に廃止されたので今後は個別に確認する必要はあります。

受益権証書を発行すると受益権証券発行信託になるか

  1. 信託受益権証書を発行していても、信託法185条以下の信託受益権(金商法第2条1項有価証券)ではないと主張するためにはどうしたらよいか。
  2. 信託契約書及び信託目録において、「当該信託受益権は法185条以下の受益権ではない」と記載しておけばよいのか?この点に関しては明文の規定がありません。

再開発や共同ビルの建て替えの場合(いわゆる民事信託の場合)、金融機関に対して代わり担保として信託受益権に質権を設定することがあります。その場合なにが質物(受益権の元本)であるかを特定する必要があります。つまり「紙」を必要とします。
運営実体や共同性、目的性を考慮して考えるべきだと考えます。

信託受益権証書の収入印紙について

民事信託の受益権証書は、信託法185条及び金融商品取引法第2条1項14号の受益証券発行信託の受益証券ではないので、印紙税法別表第一第四号ではなく12号文書です(200円)。

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