民事信託と匿名組合出資

金融商品取引法下における民事信託と匿名組合出資

法定再開発の場合、保留床は通常参加組合員が買い取ることを前提としていますが、組合員で床買い取り会社を設立してその会社が保留床を買い取る場合があります。
その方法としては次の二通りが考えられます。


保留床の買い取り方法①

保留床の買い取り方法①

1.金商法のもとでの不動産信託受益権

不動産信託受益権が「みなし有価証券」となったことから、当初委託者兼受益者が発行者となり、発行時期は信託受益権を譲渡した時期となる。
みなし有価証券である不動産信託受益権は、金商法第2条第8項7号の「募集」または「私募」に該当せず、オリジネーターが取得の申し込みを勧誘する行為は金融商品取引行為ではない(金融商品取引業の登録不要)。但し、一旦オリジネーターから不動産信託受益権を取得した者が第三者に譲渡する場合、金商法第2条8項1号・2号に該当。業として行っているかどうかの確認を要します。

2.金商法のもとでの匿名組合出資持分について

同じく「みなし有価証券」となりました。営業者において集団投資スキーム上投資運用業の登録が必要ですが、適格機関投資家等特例業務に該当する場合は、金商法第29条の登録は不要、届け出のみとなります。(金商法第63条、施行令第17条の2)。
パブリック・コメントに対する金融庁の回答は、金融商品取引法の規制対象となる「業」とは、①対公衆性のある②反復継続する行為をいうとされています。証券取引法の「営業として」はカットされました。本事案の場合、対公衆性はなく反復継続は予定されていません。

3.各地権者の信託受益権を一部匿名組合出資することに関する課税関係

原則、譲渡とみなされ不動産譲渡所得の対象とされます。買い戻し特約、民都からの出資及び銀行融資の担保ためとした場合譲渡とみなされないか否かは個別に所轄税務署を通じて国税局に確認する必要があります。


保留床の買い取り方法②

保留床の買い取り方法②

1.金商法のもとでの不動産信託受益権

→①に同じ

2.金商法のもとでの匿名組合出資持分について

→②に同じ

3.権利床と保留床

【権利床】 委託者兼受益者:地権者全員
【保留床A】 委託者兼受益者:地権者全員
【保留床B】 委託者兼受益者:民都、その他の匿名組合員(その他の匿名組合員は地権者を想定しています)。

権利床の信託契約書には、保留床を一部買い取ることを明記する。よって、保留床Aの委託者兼受益者は当初より地権者全員となる。

(注 i )不特法上現物での取得は不可ですが、都市再生特別措置法上民都からの出資は現物が条件とされています。
専ら、認定整備事業者から認定整備建築物等(認定整備の施行により整備される建築物及びその敷地)を取得し、それらの管理及び処分を目的とする株式会社、合同会社、特定目的会社に対する出資(都市再生特別措置法第71条1項第1号ロ)。
(現在の都市再生特別措置法上、受益権の取得に関する出資は該当しません)


匿名組合出資と適格機関投資家特例業務

匿名組合の営業者が匿名組合員から出資(金銭、受益権等)を受け、その出資を基に信託受益権等の有価証券を購入する場合次のことが問題となる。

1.金融商品取引業に該当する(金商法第2条8項15号)。

よって次①〜④のいずれかが必要となる。

① 営業者自ら投資運用業の登録を受ける(金商法第28条4項)。
つぎの場合は、金融商品取引業から除外されるため金融商品取引業に係る登録も適格機関投資家等特例業務に係る届け出も不要。

② 投資運用業者に対して運用行為を投資一任契約等で全て委託する(同法施行令第1条の8の3項4号・定義府令第16条1項10号)。

③ 次の者のみから匿名組合出資を受けること。
i 金融商品取引業者、ii 適格機関投資家等特例業務の届出を行った者、iii 特例投資運用者兼他の匿名組合契約の営業者(金商法第2条8項・同法施行令第1条の8の3項4号、定義府令第16条1項11号)。

④ つぎの場合には、①から③の適用はない。
金商法第63条の適格機関投資家特例業務に該当する場合。
「適格機関投資家」とは、適格機関投資家と政令で定める数(49人以下、金商法施行令17条の12第2項)の適格機関投資家以外の者を指す。
この場合は、金融商品取引業者としての登録ではなく適格機関投資家等特例業務を行うことの届出で足りる(金商法第63条2項)。金商法第63条に該当すれば、ライセンスのないSPCが匿名出資組合の営業者となることができます。


匿名組合を使わない場合

民事信託による保留床の買い取り

民事信託による保留床の買い取り図

地権者と受託者との信託契約書
信託の目的 委託者は、信託不動産を受益者のために管理、運用及び処分をする目的をもって受託者に委託し、受託者は之を引き受けた。
信託財産の処分等 受託者は、保留床の買い取り及び信託財産の維持管理に必要な場合、信託財産に抵当権を設定して金融機関より借り入れることができる。
信託の終了
(信託法163条)
本信託契約は、次の各号に掲げる事由が発生した場合には終了する。
①本信託契約の規定により解除された場合。
②信託不動産の処分が完了したことにより信託目的が達成された場合。
③信託不動産が朽廃により信託目的が達成不可能と受益者及び受託者が判断した場合。
Ⅰ 保留床が信託財産(委託者兼受益者=地権者)となる理由

信託契約に基づき、受託者が保留床を買い取るために融資を受け、買い取った保留床に抵当権を設定する行為は信託契約に基づく信託行為であり、保留床は地権者を委託者兼受益者とする信託財産となる。
金融機関からの実質借り主は、委託者兼受益者です。

Ⅱ 登記手続
権利床
登記の目的:所有権移転(地権者 → 受託者)
原 因
平成 年 月 日 信託
保留床
登記の目的:所有権移転(組合 → 受託者)
原 因
平成 年 月 日 信託財産の処分による信託
(信託財産とは、ファイナンスにより取得した現金です)

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