立川駅南口は大規模な区画整理で土地所有者のほとんどの土地は更地あるいは駐車場となっていました。
当初の予定では、11街区と12街区の間に道路は入っていませんでしたが、区画整理の都合上入ることになり分断されました。
両街区の事業収支(テナント賃料)は圧倒的に11街区の方が上でした。当初の予定通り一体開発を達成するため両街区に地権者の事業シェアによる持分(定借)を持たせ、区分建物を共有する権原を顕在化させ両街区の賃料収入を全体に及ぶようにしました。
① 土地を地権者で作った(有)立川みなみルネッサンスへ信託し(受益者:各地権者/自益信託)、工事代金のための抵当権を設定(債務者:立川みなみルネッサンス)しました。既存の担保は抹消し②の信託受益権に質権設定。
② 各土地に地権者の準共有とする定期借地権を設定。同時に立川みなみルネッサンスへ信託(受益者:各地権者/自益信託)。
この信託受益権の元本は建築される区分建物と定期借地権です。この信託受益権にプロジェクトファイナンス融資銀行のために質権を設定。
底地にあった各地権者のプライベートファイナンスの抵当権の代わり担保として受益権に質権を設定。
第一順位:プロジェクトファイナンス
第二順位:プライベートファイナンス
③ 区分建物完成後、定期借地権敷地権付区分建物に抵当権追加設定。同時に底地権者の抵当権を抹消及び質権を抹消。
敷地権にした理由:定期借地権を債権質で担保することも可能ですが、敷地権で一体化して抵当権を設定することにより抵当権に基づく競売手続き一件で執行がかけられるからです。定期借地権に対する質権の場合別途債権競売を申し立てる必要があります。
破産財団に入るのは受託者固有の財産のみであり信託財産は破産財団には入りません。
信託のB/Sには、各地権者のB/Sがぶら下がっています。
受託者が破産しても当然には欠格事由にはなりません。引き続き受託することも可能です。
民事信託の場合、特定目的会社(TMK)と違って90%超を配当するとか、配当に対して20%の源泉税という制度はありません。
常に100%配当になります。そういう意味では、配当と言うよりは収益金の分配と表現した方が税法上しっくりします(不動産所得として総合課税です)。
受託者が留保したお金は委託者兼受益者からの金銭信託となります。
不動産信託受益権は、金商法第2条8項7号で規定する「募集」または「私募」の対象となる有価証券ではありません。
従って、当初委託者兼受益者が取得の申し込みを勧誘する行為は金商法上の取引行為ではなく取引業のライセンスも不要です。
また、受託者自ら運用しないので(受益者の指図によって行動する)、受託者も取引業のライセンスは不要です。
当初委託者が他者へ売却したときが発行の時期となります。委託者兼受益者が第三者に募集を委託した場合は当然第三者に第二種免許が必要です。
①信託受益権証書を発行していても、信託法185条以下の信託受益権(金商法第2条1項有価証券)ではないと主張するためにはどうしたらよいか。
②信託契約書及び信託目録において、「当該信託受益権は法185条以下の受益権ではない」と記載しておけばよいのか?この点に関しては明文の規定がありません。
再開発や共同ビルの建て替えの場合(いわゆる民事信託の場合)、金融機関に対して代わり担保として信託受益権に質権を設定することがあります。その場合なにが質物(受益権の元本)であるかを特定する必要があります。つまり「紙」を必要とします。運営の実体や目的性を考慮して考えるべきだと考えます。
プライベートファンド(私募型不動産ファンド)では、信託契約書に「信託受益権発行信託ではない」あるいは「金商法第2条2項1号の信託受益権である」旨明記しているようです。
信託法の改正に伴い信託税制が一部改正されました。
法人が受益者の場合:信託金額を超える部分の金額は、その法人の当該事業年度の損金には算入できません(租税特別措置法67条の12)。
個人が受益者の場合:信託に係る不動産所得の金額の計算上生じた損失は生じなかったものとみなされ、損益通算ができません(租税特別措置法41条の4の2)。
その他の税制については、所得税法13条、法人税法12条の本則(実質所得者課税の原則)に則り発生時受益者課税(パス・スルー課税)となっています。
減価償却、消費税、事業税(不動産賃貸業)も受益者が対象になります(各受益権者の事業シェア割合で負担します)。
受託者が事業を全くしなければ(一般社団法人)法人税は均等割分(法人住民税)だけと言うことになります。
固定資産税等の請求書は受託者に来ます。信託配当から清算します。
再開発で保留床を地権者法人が買って運用することがあります。
この場合、地権者が法人へ出資する土地持分は現物出資となり不動産譲渡所得税がかかります。法人は不動産取得税が発生します。法人に入ってくる賃貸収入は約40%の法人税がかかります。
その後地権者に対する株式配当として20%(非上場の場合)の源泉税がかかります。合計で60%の課税です。
その法人が民事信託の受託者として土地建物を賃貸した場合、賃料収入は個々の地権者の不動産取得としての申告となります(総合課税)。
ちなみに、地権者が法人へ土地を信託して信託受益権をもらってもそこには何らの課税関係も生じません。不動産取得税、譲渡所得税等一切発生しません。
登記をしますので登録免許税はかかります。
強制執行の方法としては民事執行法第193条による債権執行の方法になります。
転付命令、譲渡命令、売却命令等によります。
不動産信託受益権の性質上、分配金については転付命令、譲渡命令でよしとするが、信託受益権そのものは信託元本とイコールと考えれば不動産執行であるともいえます。不動産執行あるいは動産執行に近い形の手続きが望まれます。
任意組合への現物出資は譲渡とみなされみなし譲渡益課税が発生します(取得原価と実勢価格との差額が利益とみなされます)。
任意組合は登記能力がないので組合の代表者名義で全部登記するか共有名義に登記することになります。
この場合、組合に出資しているので個々の組合員の債務に基づいて差押はできないことになりますが、登記簿上は任意組合財産であることが分からないのでとりあえず差押は認められる可能性はあります。
後日取り下げてもらうことになると思いますが、多分面倒です。
収益還元法、ディスカウントキャッシュフロー(DCF法)で価格を算出することになります。
二つの説明は省略いたします。
信託業のライセンスがなければ定款に「信託」と言う文字は入れることはできません。ライセンスがないので「民事信託」といいます。
事業目的には、通常「不動産の賃貸・管理」を入れます。実際に事業を行う場合(株式会社であれば利益追求集団ですので当然に事業を行います)自動販売機を持つことが多いようです。
民事信託は原則無報酬です。
原則無報酬と言ったのは、営業として信託を引き受けるには信託のライセンスが必要です。商人が営業のために信託を引き受ける行為は商法503条の付属的商行為となるので、同法512条に該当し、相当の報酬を請求することができることになります。民事信託の中の特殊な場合という他ない(四宮、信託法47頁)。
事務費(通信費、人件費)は当然に請求できます。
小規模連鎖型開発の場合、A地区の民事信託完了後隣のB地区を受託することは可能か
原則、ライセンスがないので反復継続は信託業法に抵触します。A地区の完了後B地区の住人から事前に合意書(A地区B地区併せて一緒に信託で開発する)をとっておけば、一連の信託行為とみなされる可能性はあります。一連の行為が同一の目的行為。
因みに、信託業法違反(無免許営業)というのは刑事罰であり、懲役3年以下若しくは300万円以下の罰金、または併科です(信託業法91条)。
地権者が作った受託会社の株式割合と信託受益権の割合は一致していなくともいいか
受益権者集会で決定したことが受託者の株主総会で否決されると意志決定が履行されません。従って、両総会の株式割合は受益権割合(事業シェア割合)と同一にした方がよいでしょう。もっとも、受託者は受益権者集会の決議に従う旨信託契約で決めていますが。当初、株式配当もほとんどないのだから株式割合は均一でいいのではないかと考えましたが、あるところでは、ビルの一部を多目的ホールとして受託者が借り受け様々なイベントを行って儲かっているようです。勿論株式配当をしています。
信託法上の決まりはありません。受託者は、個々の受益者の「信託の計算書」を翌年1月31日までに所轄税務署へ提出する必要があるので、それに併せて報告総会を開催することになります。
被相続人Aは、生前相続税対策のため孫全員と、娘婿Bを養子にしました。相続時には相続人が6人となり、駐車場として利用していた駅前の土地約600坪を6人で均一に相続しました。Bとしては、子供達が将来結婚するといわゆる他人が入ってくることになる。子供達が持分を勝手に処分したり、最悪の場合サラ金の担保にされたりと色々と不安でした。
ちょうどその時、隣接の土地約200坪を駐車場として利用していたスーパー経営者Cより共同して大型店舗を建築しないかと誘いがあった。Cより「共有だと権利関係が複雑になるので、Bがオーナーである有限会社Dに地上権を設定し、Dとの共同事業にしたい」旨の申し出があった。つまり6人との契約を有限会社1社に絞ったわけです。
この場合、Dには建物の賃料収入が入ってきて、その中から6人に対して地代を支払うことになる。
課税関係で見ると、Dに対して法人税(不動産所得税)、6人に対して不動産所得税が課税されることになる。特にBにとってはまるまる二重課税になる感じです。地上権の設定についても譲渡所得が課税されそうです。
では、どうしたか?
6人共有の土地及び建築する建物を有限会社Dに信託し(信託銀行を使わない信託、これを民事信託と言います。原則無報酬です)、Dとスーパーで共同事業の契約を締結して建物建築工事を共同して発注しました。このときの法律関係は、Bを含む6人が委託者兼受益者、有限会社Dが受託者となります。土地600坪に見合う完成後の建物の賃料は、有限会社Dに入金されます。入金になった賃料は信託配当として6人へ支払われます。このときの課税関係は、Dに対する法人税(法人住民税の均等割分のみ/年間70,000円・不動産所得はなし)、相続人6人に対しては信託配当が不動産所得(賃料収入)となります(受益者等課税信託)。また、土地は対外的にはDのものですが、実質所有者は委託者兼受益者である6人にあるとみなしますので土地に関する課税関係(6人から有限会社Dに対する譲渡課税)は生じません。
これによって、子供達が勝手に土地を処分し、子供が借金しても土地の持分自体を差し押さえることはできなくなります。但し、信託受益権は質権にとったり、差押さえることも可能です。いきなり土地や建物の持分に対する差押がないという意味ではテナントや共同事業者その他の関係者に迷惑を掛けることはありません。
Bさんの場合は、スーパーから建設協力金として16億円(工事代金相当額)が支払われました。
それを分割して返済に充てるのですが、スーパーの担保としては土地と建物の持分に対して抵当権を設定しました。この場合は、信託行為に基づく抵当権なので当然に競売に掛けることが可能です。
相続が発生した場合は、信託受益権を相続することになります。相続人が複数であれば受益権を共有します。土地は路線価格、建物は固定資産評価額で計算します。不動産を相続したのと同じ扱いです。
また、将来この信託受益権を売却して別の不動産を買った場合でも事業用資産の買い換え特例を使うことができます。
金融商品取引法の関係では、民事信託の受益権は「みなし有価証券」とされましたが、受託者が信託受益権を委託者兼受益者へ渡しても有価証券の発行とはされません。よって、受託者は金融商品取引法上のライセンスは不要です。委託者兼受益者が受益権を他へ譲渡したときが発行とみなされますが、6人は商売として受益権を第三者へ売却するわけではないので金融商品取引法上のライセンス(2種免許)もいりません。
建設協力金16億円は無利息ですので、まさにBら6人はAから優良な資産をいただいたのです。
うらやましい限りです。