複数地権者に係る土地信託

信託行為・信託財産の個数については、複数地権者に係る土地信託の実務知識(建設省建設経済局宅地企画室監修土地有効利用研究会編ダイヤモンド社)を援用しました。

土地信託の仕組み

土地信託とは、土地を有効利用し収益をあげる目的で、土地所有者等地権者(委託者)が受託者に土地を信託し、受託者が所要資金の調達、建物の建設、建物の賃貸保守管理、テナントの管理ないし契約の更新等を行い、その管理運用等の成果を信託配当として受益者に(委託者たる地権者)に交付するものです。

土地信託は賃貸型と処分(分譲)型に大別できます。
分譲型は受託者が所有権を売却して信託財産から分離し、同時にその売却代金を受益者に信託配当として交付します。

本稿においては、賃貸型について説明します。

  • 地権者は受託者と土地信託契約(信託の目的が建物の建築である場合、信託契約によって発生する受益権には建物に対する権利も包含する)を締結して、土地の所有権を受託者へ移転する。
  • 受託者は信託契約に定められた信託目的に従い、建築会社と建築請負契約を締結する。
  • 受託者は建物の建築に必要な資金を金融機関から借り入れる(借入金は信託財産となる)。
  • 受託者はテナントと賃貸借契約を締結する。
  • 受託者はテナントから賃料を受領する。
  • 受託者は賃料収入から金融機関への借入金を返済する。
  • 受託者は、賃貸収入から管理費、公租公課(固定資産税・都市計画税等)を支払い、残額を信託配当として受益者に交付する。
  • 信託終了後、受託者は土地建物等の信託財産を返還する(最終の受益者が当然に元本の受領者とは限らない。信託契約の内容による)。

(1)考えられる仕組み

複数の地権者が一団の土地を信託して、受託者がこれを一体画地として運用する仕組みとしては、次のものが考えられます。

A 共有化方式
あらかじめ土地を共有化した上で信託する(都市再開発法に基づく権利変換)。
B 分有方式
各地権者が単独所有地(分有地)を信託する。
C 組合介在方式
地権者は、組合を組成し土地等を組合に出資する。組合がこれらの土地を信託する。

A 共有化方式

A. 共有化方式

地権者間で事前に共有化したうえで、当該共有地を信託。
信託行為・信託財産がともに一つ。

B 分有方式

各地権者が単独所有の土地(分有)を信託し、受託者がこれら一団の土地を一体画地として運用する。
この分有方式については、「信託行為」と「信託財産」の数をどう構成するかの点から、さら以下の3つの仕組みが考えられる。

(a)複数の地権者が1つの信託行為で土地を信託し、これらの土地が1つの信託財産を組成する場合(単一行為 ― 単一財産方式)。

B. 分有方式その1

(b)複数の地権者が各々別個の信託行為によりそれぞれの土地を信託し、各土地は個別に信託財産を組成するが、受託者がこれらの土地を一体画地として運用する場合(複数行為 ― 複数財産方式)。

B. 分有方式その2

(c)複数の地権者が各々別個の信託行為によりそれぞれの土地等を信託するが、これらの土地等が1つの信託財産を組成する場合(複数行為 ― 単一財産方式)。

B. 分有方式その3

C 組合介在方式

複数の地権者が地権者組合を組織し土地を組合に出資し、当該組合が1つの信託行為で1つの信託財産を組成する場合。

C. 組合介在方式

(注)組合財産は総組合員の共有となる(民法668条)ので、地権者組合が信託する土地は共有地であり、この点では、前記A「共有化方式」と同じである。ただし、この方式は譲渡益課税、不動産取得税および登録免許税等の流通税が多大である。

(2)複数地権者の仕組みの可能性

共有化方式と組合介在方式が可能であることについては異論がない。
分有方式の可否を定めるには、次のA〜Dを検討する必要がある。

  1. 複数地権者が1つの信託行為をなしうるか。
  2. 複数の信託行為で1つの信託財産を組成しうるか。
  3. 別個の信託財産に属する土地を一体的に運用することは、信託財産分別管理義務に違反しないか。
  4. 複数の地権者から受託した土地を一体的に運用することは、受託者の忠実義務に違反しないか。
  5. さらに、地権者が受託会社を設立した場合(合同会社・株式会社・一般社団法人等)
    受託者(地権者全員で設立した会社)による地権者調整は利益相反行為となるか(自己信託の可否)。

「分有方式」の可否については、A乃至Dの項目を検討する必要がある。

A 「単一行為」方式について

複数地権者が1つの信託行為をなしうるか。
信託行為には「所有権を委託者から受託者へ移転する」という物件的処分行為がある。
「各地権者は、自分の持っている土地等についてだけ処分(所有権の移転)できるのであり、他の地権者のもつ土地等について処分する権能は有していない」と考え、また、他方で、「処分行為としての側面なくしては信託行為はありえず、信託行為はそれを構成する処分行為単位で成立するから、複数の処分行為の上に1つの信託行為が成立することはありえない」と考えると、「複数地権者が各々所有する単独所有地(分有地)を信託する場合には、地権者の数だけ信託行為が成立するのであり、1つの信託行為となることはありえないのではないか」との疑問が生じる。

B 「複数行為 ― 単一財産」方式について

複数の信託行為で1つの信託財産を組成しうるか。
信託行為によって信託財産が設定されるのであるから、通常は信託行為ごとに信託財産が成立する。
そこで、別々の信託行為によって1つの信託財産を設定することが、可能かどうか検討する必要がある。特に新しく参加してくる地権者の追加信託財産。

C 「複数行為 ― 複数財産」方式について

別個の信託財産に属する土地を一体画地として運用することは、「信託財産分別管理義務」に違反しないか。

D 「分有方式」全体について

複数の地権者から受託した土地を一体画地として運用することは、「忠実義務」に違反しないか。

E 受託会社が地権者全員で作った会社の場合、信託宣言の禁止に抵触しないか。

以上、複数地権者に係る土地信託の実務知識より援用。


結論

Eについては、信託宣言が禁止される実質的理由は①自己の財産を目的財産とすることによって債権者を害する恐れがあること②法律関係が不明確になること③義務履行が不完全になりやすいこと(四宮和夫信託法新版84項)に抵触しないかという観点から検討する必要がある。本件は単独行為による信託宣言とは異なり、受託会社は全ての地権者が出資して設立した会社であり多数当事者間の権利義務の関係に該当する。すなわち、地権者Aは他の地権者全員に対して受託行為の履行について請求権及び監督権を有しており、A以外の地権者も他の地権者に対して同様の権利義務を有している。すなわち、受託会社は全ての地権者に対して同様に義務を負っており,義務履行者と権利者とは完全には一致しない。よって、信託宣言には該当しない。

1つの信託行為、1つの信託財産

地権者全員が一時に信託行為をしなくとも、地権者が多い場合や事業に合意した者から順次信託してもこれらを全体で一つの信託行為ととらえて理解することは可能であり素直である。

また、地権者相互の意志が強固であり、地権者一人の土地が欠けても事業を継続する意欲がなくなるような場合には、全体で一つの信託財産と考えるのが当事者の合理的認識に合致している。したがって、共有地と分有地の場合とを敢えて区別する意義を見出しがたい。信託行為が単一であるか複数であるかまた複数の信託行為によって、一つの信託財産を構成しうるかと言う議論は意味をなさない。あくまでも総地権者のプロジェクトに対する認識の問題でありそう評価する方が現実に即していると考えます。

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