「まちづくり会社」と民事信託

中心市街地活性化法等に基づき経済産業省中心市街地活性化室が中心となって、地方都市の空き店舗・空き地となって空洞化した商店街、いわゆるシャッター通りとなった商店街をなんとか活性化させようとしています。

そのために、予算をつけ専門家チームを現地へ派遣し指導に当たっています。色々な手法がある中であまりお金を掛けないで資金を捻出し、無駄な税金を支払わないですむスキームを作ることが重要な課題の一つです。公的資金の融資や補助金の受け皿として各地に市街地再生のための事業を行うことを目的とした「まちづくり会社」が作られています。「まちづくり会社」の株主は各地の中小事業者です。ほとんどの「まちづくり会社」は土地を借りて建物を建てテナントに貸しています(所有と利用の分離)。この場合、「まちづくり会社」は経費を引いた残りの約40%を法人税として支払い、残りを株式配当に回すことになります。そして、株主への配当の20%は源泉税となります。

また、ある「まちづくり会社」では、店舗等をたくさん持ちすぎたため、借金も膨大になり危機に瀕しているところもあります。

私が提案しているのは、「まちづくり会社」は物を所有しないと言うことです。まず、税金がかかりすぎること、配当が少ないことです。では、どうしたらよいか?民事信託を提案しています。別図のように土地所有者または事業に参加する方々が土地を共有で定期借地権を持ちます。その定期借地権をこれから造る建物とともに「まちづくり会社」に信託します。信託銀行その他信託のライセンスを持つ会社に信託するのが商事信託といい、それ以外の会社や個人へ信託することを民事信託といいます(原則無報酬です)。

信託を受ける人(預かる人)を受託者と言います。信託をする人(預ける人)を委託者と言います。信託財産(定期借地権、建物等)を信託元本と言います。信託元本から生ずる果実(賃料収入等、信託配当と言います)を受け取る人を受益者と言います。通常は委託者と受益者は同一です。

賃料収入に対する「まちづくり会社」への課税はありません。受益権者に不動産所得として直接課税されます(受益者等課税信託)。これによって、法人税40%の削減と配当に対する源泉税がなくなります。高度化融資と戦略補助金を受けるためには受益者は中小事業者である必要があります。「まちづくり会社」の株主と受益者とは同一になります。「まちづくり会社」が直接戦略補助金を受ける場合は、「まちづくり会社」が圧縮記帳をすることになりますが、民事信託の場合は各受益者が圧縮記帳することになります(法人税法42条〜44条、個人は課税の繰り延べ所得税法42条、43条)。

融資に対する担保は、信託された定期借地権と建物です。まず、定期借地権と建物(まだ完成していません)を信託することによって発生した受益権に、金融機関を質権者とする質権を設定します(債務者:まちづくり会社)。建物完成後、追加信託登記をした建物に「まちづくり会社」を債務者とする抵当権を設定します。注意することはこの建物は必ず定期借地権敷地権の区分建物であると言うことです。理由は、敷地権がないと建物を競売したとき当然には定期借地権が競落人のものとならないからです。敷地権がついていることによって建物と運命を同じにすることができるからです。抵当権設定後、受益権に設定した質権を抹消します。


金融商品取引法との関係で、民事信託の受託者はライセンスが必要か?

受託者の行為は、金融商品取引法上は、内閣府令14条3項により「信託受託者自らが運用者ではない場合に該当」するため、受託者に免許は不要です。当初委託者兼受益者が発行者となり、発行の時期は当初委託者兼受益者が信託受益権を譲渡した時期となります(内閣府令14条3項1号イ)。

自己募集行為が金融商品取引行為に該当するのは一定の有価証券だけであり(金商法2条8項7号)、不動産信託受益権は含まれていません。従って、当初委託者が自ら勧誘行為を行うことは金融商品取引行為に該当しないことになります(不動産ビジネスのための金融商品取引法入門改訂版91頁、99頁弁護士田村幸太郎編著)。

問題点

中心市街地活性化法では、一部の補助金に関しては「補助金の対象者が株式会社、持分会社、第三セクター、特定目的会社に限る」となっています。信託の場合、実質的対象者は受益権者である各中小事業者(法人・個人)です。
しかし、「まちづくり会社」をつくって「まちづくり会社」自体が融資等を受けたと同じあるいはそれ以上の効果があることは論を待たないところです。


「まちづくり会社」の基本形イメージ1

前提条件
A〜H:中小事業者
1街区2街区を一体として管理運営する。案内所、無料駐車場は収益を生まない。1街区、2街区とも案内所や駐車場は必要。
1街区、2街区を一体として運営することが双方にとって集客力を増すことになる。どちらを欠いても駄目。AもHも収益が必要。
その為には建物所有を目的とする権原が必要(このことは全員について同じ)。権原は1街区、2街区の定期借地権。
まちづくり会社
経済産業省が進めている中心市街地活性化事業の受け皿として「まちづくり会社」が全国的に設立されています。これは、高度化融資や戦略補助金の受け皿と考えられています。「まちづくり会社」の株主は地域の中小事業者。
事例
まちづくり会社が定期借地権を取得し、建物を取得。テナントを誘致して賃料収入を得る。株主へ株式配当。
問題点
まちづくり会社で約40%の法人税課税。株式配当で20%の源泉分離課税。合計60%の課税の発生。
但し、まちづくり会社は、直接補助金を受けているので自ら圧縮記帳が可能。
解決策
A〜Hの定期借地権と建物(まだ完成前)を、まちづくり会社へ信託。信託受益権をA〜Hが取得する。この考えは、法定再開発の土地持分を信託したのと同じ考えです。
結果
まちづくり会社へ入る賃料収入は、信託元本としてA〜Hへ信託配当します。全額配当せずに一部留保も可能(留保金は金銭信託となります)。まちづくり会社の課税は、均等割の年額70,000円。A〜Hの信託配当は、不動産所得となります)。
補助金の圧縮記帳は、各受益権者が行います。個人は課税の繰り延べ。
これによって、大幅な節税が可能となります。

「まちづくり会社」の基本形イメージ2

金融商品取引法との関係
受託者の行為は、金融商品取引法上、内閣府令14条3項により「信託受託者自らが運用者ではない場合」に該当するため、金商法上のライセンスは不要です。
自己募集行為が金融商品取引行為に該当するのは一定の有価証券だけであり(金商法2条8項7号)、不動産信託受益権は含まれません。従って、当初委託者が自ら勧誘行為を行うことは金融商品取引行為には該当しないことになります。
信託受益権の発行の時期は、当初委託者兼受益者が受益権を譲渡した時期となります(内閣府令14条3項1号イ)
ファイナンスや補助金について
ファイナンスや補助金の受け皿は、受託者である「まちづくり会社」ですが、まちづくり会社は信託行為に基づいて借入や補助金を受領(金銭信託)しているので、それらの金銭は当然に信託財産となります。その金銭よって完成した建物は信託元本となります。
担保について
定期借地権と建物を包含した受益権に質権を設定。建物(定期借地権付区分所有建物)完成後抵当権を設定し、質権を抹消。
受益者固有の債務について
信託財産となった元本を受益者固有の債務に基づいて差し押さえをすることはできませんが、受益者のもっている受益権を差し押さえることは可能です(債権競売)。

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