以下は全て旧信託法、信託業法及び国税庁昭和61年・平成10年土地信託通達(平成18年廃止)に基づくものである。但し、現在でも考え方の基本は同じである。
本スキームにおける信託は営業信託に該当しない。
全ての信託行為については信託法の適用を受けるがさらに信託行為を「業として」なす場合には信託業法の適用を受けることになる。営業信託(商事信託)と非営業信託(民事信託)との線引きは、前者は反復性、継続性及び営利性の信託であり、後者は個別的、非営利的な信託引き受けといわれる(四宮92項)。
有限会社は営利目的法人であるが、その法人の行為が商行為か非商行為かという点と、営業行為か非営業行為かという点は峻別される必要がある。(有)立川みなみルネッサンスは、その地権者全員を出資者として設立されたものであり、信託行為そのものについては有償性を前提としていない。
この点信託報酬を徴収しないというのは非現実的と言う主張もあるが、それは受託義務履行の問題であり、さもなくば民事信託の存在する余地はなくなってしまいかねない。
11街区と12街区は1つの信託財産として合同運営されることを前提としており実質的に一体である。また、本件スキームにおける信託契約は各地権者と締結しており(13件の契約)かつ底地及び定期借地権に対する信託契約と複数に及ぶ。このことが継続性、反復性がないかが問題となる。
委託者(地権者)の共同事業意志が強い場合は、複数の信託行為で1つの信託財産を組成することも可能と解されている(複数地権者に係る土地信託の実務知識32項)。
本スキームにおける各地権者は、複数の借地権及び底地権を1つの信託財産として利用することで商業施設の管理運営を可能にするという共同事業意志を有している。そうであれば、各地権者との本件借地権及び各底地権も併せて1つの信託財産を組成すると解釈することが可能であり、複数の信託引き受けが反復継続していると評価すべきではない。
借地権に加えて底地権も信託引き受けすることについては、結局2つの信託引き受けが行われているので信託引き受けの反復継続性が問題となる。
底地権も信託に入れる目的は建設資金調達のためであるが、それだけの理由であれば信託に入れる必要性はない。将来の借り換えや大規模修繕の資金調達を考えた場合、相続登記の遅延、仮差押等(受益権を差押できるので強制執行逸脱罪や債権者詐害行為にはならない)に惑わされない。そのことは、有限会社が完全な管理・処分権を有する状態を作ることであり、全体として1つの信託財産を組成するという解釈は可能である。よって、複数の信託引受が反復継続して行われていると評価すべきではない。
成立した法律関係(信託の引き受け)の内容に従って管理運営することは債務の履行行為であり継続反復して営業信託を行っていることにはならない。
以上より、本スキームにおける信託は営業信託には該当せず、信託業法1条違反にはならない。
各借地権(11街区、12街区)及び各底地権が全て一体として1つの信託財産を構成する場合には、分別管理義務違反は生じない(複数地権者に係る土地信託の実務知識36項、123項)。
個別の信託財産を構成しているとした場合でも物理的に分別して管理することまで求める趣旨ではなく適正な管理が行われていればよい。
具体的には、
以上の措置を採れば適正な管理が行われているものとして分別管理義務違反は生じないと考える(複数地権者に係る土地信託の実務知識37項、123項)。
受託者が法人である場合、当該信託の引受が法人の権利・行為能力の範囲に属していなければならない。本件受託会社は目的を不動産の売買、賃貸、管理等としている。不動産の管理の一方法として賃貸借の手法を用いるか、信託という手法を用いるかは手法の問題であるとすると行為能力の範囲に十分含まれるものと考える。
なお、本件有限会社に受託者としての義務を履行する能力が有るかという点については、むしろ後述の自己執行義務の問題である。
受託者である本件有限会社が一体的一元的に管理運営することを前提とするものの、実質的な建物管理及びテナントとの交渉は業務委託を受けたそれぞれのPM会社である。当該PM会社は信託法26条の「代人」に該当する。本件信託の場合代人の使用を認めているので問題とはならない。
また、信託法26条1項は、「やむことを得ざる事由ある場合」代人使用を許容しているが、大規模商業施設の保守管理の専門性の高さから、代人使用のやむをえない事由ある場合として、自己執行義務違反は生じないと考える。但し、テナントとの契約書の管理・収支管理まで第三者に丸投げ的に委任することは問題である。最低限信託財産を計算できる情報は把握している体制は確保すべきである。
本件信託契約の委託者は地権者全員であり、受託会社の社員も地権者全員である。委託者と受託者は人格を異にし形式的には信託宣言には該当しない。しかし、委託者と受託会社の社員が同一であることから信託法1条の定めを潜脱するものではないか疑問が生じる。
本件信託契約では、単独行為による信託宣言とは異なり、異なる人格間の信託契約により財産が信託されている。受託会社は全ての委託者に対して義務を負っており、また各委託者は受託者の行為をチェックできる体制にある。よって多数当事者間の債権債務の関係と同様に互いにチェック機能が働いているので債権者に対する詐害の可能性もなく実質的にも信託宣言には該当しない。
受益権を譲渡・取得した場合、有価証券類似の資産の譲渡・取得ではなく信託財産そのものの譲渡・取得とみなす閣議決定(昭和61.1.14)を受けて上記の通達が発遣された。
信託受益権は、当初の信託受益権を譲渡するために委託者により分割されるものであること。これは、分割された受益権を取得した者(投資家)が、これをさらに細かく再分割すると、信託受益権の細分化が進み「受益者が信託財産を所有している実態にあると認められる」状況が確保できなくなるためである(税務通信)。
この昭和61年土地信託通達がその適用対象を受益権を分割しないものに限定した趣旨は、受益権の分割・細分化により受益権が株式や債券等のように転々流通することとなった場合には、信託財産と受益者の結びつきが希薄となり、受益者による信託財産そのものの所有という実質を失うことになると解されたことに寄るほか、当時の土地信託商品が受益権を分割しないものであったことによる(税務通信)。
*平成10年度税制改正の要綱(平成10年1月9日閣議決定)
「委託者を受益者とする土地信託について当初の受益権を分割した場合においても、その受益権の分割・譲渡の態様などからみて受益者が信託財産を所有している実態にあるものの信託財産の異動及び受益権の譲渡については、受益者がその信託財産を所有しているものとして、長期譲渡所得の課税の特例を適用する」ことが明記された。
昭和61年土地信託通達が既存の受益権が分割されない土地信託商品を対象にしたもので、その取り扱いにおいて受益権が分割されることを前提としていないこともあって、別途、当初の受益権が分割される土地信託に関する課税上の取り扱いを明らかにする趣旨で、平成10年土地信託通達が発遣された。
受益者たる投資家がまさに信託財産(不動産)の保有に着目して投資を行っているかどうか。(1)受益権の分割口数、(2)最低分割金額、(3)分割された受益権の保有状況、(4)信託終了時に交付される信託財産の内容などから判定しようとするものである。
(1)受益権の分割口数は50口以下、(2)1口当たりの最低金額は1,000万円とするほか、受益権は当初委託者兼受益者が譲渡する場合を除き、原則として譲渡できない(分割された受益権は譲渡できない)もので、また、原則として信託終了時に信託財産が交付されるものであることから、受益者にとってその信託財産たる不動産を直接所有することができる途が開かれているため、信託財産たる不動産と受益者の結びつきは希薄とならず、「受益者が信託財産を所有している実態にある」と認められたことにより、国税庁では同年4月6日付で、「商品概要案」に基づく土地信託は本件通達の適用対象となる土地信託に該当する旨回答した。これにより、本件通達の適用対象となる土地信託は、当面、この「商品概要案」に基づく土地信託に限られることになる。
*ちなみに、受益権の分割口数の50口以下、1口当たりの最低金額1,000万円以上というのは不動産特定共同事業法の金銭出資の最低出資単位や不動産小口化商品の実例などを参考に定められたものである。
昭和61年土地信託通達及び平成10年土地信託通達は、当初委託者が受益権を分割譲渡する目的で受益権を商品として販売することを前提としたものである。
一般の投資家は不動産と受益権との結びつきを深くは考えていない(不動産を所有しているという概念が希薄である)。だからこそ、受益権の譲渡・取得の場合でも不動産の譲渡・取得と同じ租税公課を実現させるために分割の口数、最低金額の設定及び再譲渡の禁止を信託協会で自主的に設定したものである。しかし、立川みなみルネッサンスのように地権者の全員が共同でビルを建て、信託の目的が共同ビルの円滑な運営管理を目的とするものであり、信託することによって、地権者に相続、破産等があっても円滑にテナントとの更新・新規の契約ができることに意義があると地権者全員の共同意志がある場合、上記の通達は意味をなさないものである(不動産に対する結びつきが強い)。
通達は、受益者の再譲渡禁止の例外として、受益者の破綻をあげているが、再譲渡することによって不動産との結びつきが希薄になるという根拠が不明である。分割再譲渡の禁止は、管理が煩雑になることから規定したものであると思慮される。
(注)前述の通り、本稿は旧信託法、旧信託業法及び平成18年に新信託法の施行と同時に廃止された昭和61年・平成10年の国税庁土地信託通達に基づいているが、民事信託としての考え方の基本は変わらないものと考える。