成年後見制度と民事信託

成年後見制度とは?

成年後見制度という用語は、未成年者後見に対比して用いられるようになったもので、認知症、知的障碍、精神障碍などによって物事を判断する能力が十分でない方について、本人の権利を守る援助者を選ぶことによって、本人を法律的に支援する制度です。
法定後見制度には本人の判断能力に応じて後見(判断能力が全くない方)・保佐(判断能力が著しく不十分な方)・補助(判断能力が不十分な方)の三種類があります。法定後見の申立てができる方は、本人、配偶者、四親等内の親族、検察官、市区町村長等です。

任意後見制度とは?

法定後見制度の他に任意後見制度があります。任意後見制度は、本人に十分な判断能力があるうちに、将来、判断能力が不十分になった場合に備えて、あらかじめ自ら選んだ代理人と公正証書によって任意後見契約を締結します。本人の判断能力が低下した場合、本人、配偶者、任意後見受任者、四親等内の親族等の申し立てによって家庭裁判所が任意後見監督人を選任します。後見監督人が選任されたときから任意後見契約の効力が発生します。法定後見も任意後見もそれぞれ家庭裁判所及び公証人役場から登記が嘱託され後見登記簿に登記がされます。後見が開始すると本人の国家資格や公務員などの地位を失いまた選挙権もなくなります。本人の財産管理についての全般的な代理権、取消権(日常生活に関するものを除く)が後見人に与えられます。

成年後見制度と民事信託のコラボレーション

成年後見制度と民事信託を利用したある事例をご紹介いたします。
Aさんは、都内に300坪の駐車場を所有していました。土地の有効利用と今後の生活を考えて大手開発会社(Bデベロッパー)と等価交換でマンションを建てることにしました。しかし、Aさんは80歳と高齢であったため長男のアドバイスに基づいて長男と長女に当該土地を信託し、その上でBデベロッパーと等価交換の合意書を締結しました。信託契約の内容はBデベロッパーと等価交換によるマンションの取得が主な目的です。

成年後見制度と民事信託のコラボレーション

その後、Aさんはマンションの完成前に認知症になってしまい、成年後見人として長男が選任されました。
手続きとしてマンションの建築確認後Aさんが取得する住戸の特定(マンションの売買契約の締結)をしなければなりません。この場合成年後見人である長男がBと売買契約を締結するのが通常ですが、当初の土地売買契約が受託者としての長男と長女ですので等価交換によって取得する住戸の契約も(受託者としての)長男と長女である必要があります。完成後のマンションの賃料収入は源泉税のない信託配当(不動産所得)としてAさんの口座に振り込まれます。実際に管理するのは成年後見人である長男です。

この場合、信託契約前にAさんが認知症になっていたら成年後見人選任の申し立てから選任までの期間約3ヶ月から5ヶ月間くらいデベロッパーとの等価交換の合意書の締結を待たなければなりませんでした。
余談ですが、Aさんが信託契約締結後死亡したとします。Aさんの意思は死亡後も相続人に引き継がれ信託受益権が相続されることになります。信託契約書の中で受益権を相続する者を指定することも可能です(狭義の遺言信託)。一方、受益権の相続人が確定しない場合でも等価交換のデベロッパーは受託者と契約の実行(完成マンションの引き渡し及び受託者名義の保存登記)をすることが可能です。
ここが成年後見制度との大きな違いでしょうか(成年後見は本人の死亡によって消滅します)。

因みに、長男は信託の受託者としての地位と成年後見人としての地位の両方を任じていますが利益相反にならないでしょうか?結論は利益相反にはなりません。成年後見人も信託の受託者も(信託契約に基づいて)本人の利益のために、本人の財産を適切に維持し管理する義務を負っていることは一緒だからです。しかし、長男の経営する会社からAの資金で高額な買い物をする場合は成年後見人としては利益相反行為になるので後見監督人の承諾が必要となります。一方、受託者としては長女との合有ですので利益相反にはなりません(長女のチェックがきいているので)。

書いていてなかなかおもしろい事例だと思いました。成年後見と民事信託のコラボレーションの他にも民事信託とのコラボレーションはもっといろいろと有るかも知れませんね。

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